湖には、希少なエゾサンショウウオも棲んでいるらしい。 撮影/1999・10・14


 積丹(しゃこたん)半島の西にある、神恵内。地名の由来はアイヌ語のカムイナイで、「美しく神秘な沢」を意味する。神恵内では、江戸時代からニシン漁が盛んに行われ、大正元年には道内一の漁獲量を誇った。
 標高六二五メートルの高地にある当丸沼は、幅五○メートル、長さ二五○メートルの細長い沼だ。
 昔、当丸沼に千年も生きたかと思われるような大蛇が棲んでいた。蛇は沼から出ようと何度も試みるが、大嫌いな桂の大木が横たわって尻尾を押さえつけていて、這い出ることができない。
 ある雨の夜、近くの炭焼き小屋で樵が寝ていると、枕元に白無垢姿の美女が現れ、
「私はこの沼に棲む蛇の精ですが、桂の木のために沼を出ることができません。どうかあなたのお力で桂の木を切り除いて、私を沼から出してください」と物悲しく哀願する。
 樵は、夢うつつのなかで怪しみ、また恐れたが、女を哀れに思い意を決して暗闇のなか、大斧を担いで出かけることにした。そして、大木や生い茂る熊笹をかきわけ、ようやく沼の桂の大木に辿りつく。
 一昼夜、一心不乱に斧を振るった樵が、ようやく切り終わろうとしたその時、空がにわかにかき曇り、雷鳴がとどろいてどしゃぶりの雨が降りはじめる。沼はあふれ、やがて地鳴りとともに沼の水が堰を切って流れだした。
 大蛇はその濁流のなかをゆうゆうと泳いで海へ出ると、竜神岬から竜巻とともに天に昇っていった。
 この話を伝え聞いた村人たちは、岬に竜神様を祀り、村の繁栄と海上の安全、そして魚の保護、豊漁を祈った。
 その後、神恵内村の漁場は大いに栄えたという。

◇神恵内村へは札幌から車で約二時間半、小樽からは約一時間半。当丸沼は、神恵内村の市街地から道道九九八号線を古平方面へ約一五分、案内看板より徒歩二五分。